アルジェの戦い

拷問に耐えかねて口を割ったと覚しい小柄な男の手引きで、仏軍がカスバのとあるアパートを包囲する。壁の中に作られた秘密の小部屋に、民族解放戦線(FLN)の若き幹部アリ(ハジャク)が息を潜めている。「正規の裁判を保障する」と投降を呼びかける仏軍隊長に対し、彼は沈黙を守り続ける。その顔の大写し。

米国がその圧倒的な力で世界を一つの図式で覆った。
対テロ戦争という不思議な言葉。
この錦の御旗の下、先進諸国が足並みを揃える。
確実に何かが視界から排除されている。
そんな時代にこの映画に光を当てれば、果たしてどんな表情を見せてくれるのか。

【 La Battaglia Di Algeri 】
監督:ジロ・ポンテコルヴォ (1966年・アルジェリア / 仏)
脚本:フランコ・ソリナス 撮影:マルチェロ・ガッティ
音楽:エンニオ・モリコーネ、ジロ・ポンテコルヴォ
出演:ブラヒム・ハジャク、ジャン・マルタン、ヤセフ・サーディ、トマソ・ネリ、ファウチア・エル・カデル

アルジェの戦い映画はアリの回想という形を取って、壮絶なアルジェリアの独立運動を描く。迫真力に圧倒される。乾いた町をテロの凶行が走る。有無を言わせぬ現実として、それは起こる。

カメラがアルジェの町を俯瞰する。そこにありありと写し出される支配と被支配の関係。近代建築が立ち並ぶ欧州人街と、その背後の山岳地帯を切り開いて作られた貧民街カスバ(ジャン・ギャバンの「望郷」の舞台だ)。戦いの構図は先鋭化せざるを得ない。

カスバのならず者に過ぎなかったアリが民族心に目覚めたのは、獄中で目にした衝撃的な光景が原因だった。FLNの闘士が刑場の片隅でギロチンで処刑されたのだ。つい昨日までギロチンが使われていたということ。

アルジェの戦い仏警官を狙ったテロが続発する。仏当局は検問所を設けてカスバを封鎖する。FLNは女戦士を使った爆弾テロで対抗する。たまりかねた仏側はマチュー将軍以下40万の大軍を投入、テロリスト掃討作戦「シャンペン」を開始するのだが、反ナチ抵抗で勇名を馳せた人物がテロ弾圧に乗り出すという歴史の皮肉と、記録映画を彷彿とさせる生々しい臨場感に息を呑む。実景ロケと現地市民の出演のなせる業だ。

FLNが採ったゼネストという戦術が、敵の作戦を正当化する格好の口実を与えてしまう。マチューは不審者を次々に強制連行して拷問にかけ、組織の全容を解明する。FLNだけでなく、仏側にも等しく照明を当てていることがこの映画の現実感をいっそう確かなものにする。

FLNの指導者ベン・ミディは獄中で死に(殺し?自殺?)、アリを運動に導いたカデルも敵の軍門に下った。そして映画は冒頭の場面に戻る。アリとその同志たちはなおも無言だ。マチューは爆破を命令する。

体を切っても頭が残っていればすぐ再生することから、マチューがサナダムシと呼んだカスバのFLNは壊滅したかに見えた。しかし二年後、民衆蜂起が卒然として勃発する。何故それが起こったのか分からないと云う。その答えは一切の対話を拒絶した、あの壁の中の沈黙の声に耳を傾ければ聞こえてくるはずだ。62年、アルジェリアは独立を獲得する。66年のヴェネチア映画祭でこの映画のグランプリ受賞が決定したとき、出席中の仏映画人代表団はフランソワ・トリフォーを除いて全員退席して不満の意を表明した。この挿話もまた、「アルジェの戦い」が傑作であることを証する勲章の一つだ。

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■ 追記 ■
Gillo Pontecorvo, 86, Director of 'Battle of Algiers,' Dies
(New York Times 2006/10/14)

ジロ・ポンテコルヴォ監督の訃報。享年86。

Gillo Pontecorvo, the Italian filmmaker who explored terrorism and torture in colonial Algeria in the powerful and influential 1965 classic, “The Battle of Algiers,” died here on Thursday. He was 86.

But its legend grew as it was used as a kind of training film by both urban guerrillas and the authorities trying to suppress them. The Black Panthers studied the film in the 1960’s, and in 2003, months after the war against Iraqi insurgents began, the Pentagon screened the film for military and civilian war planners.
In a 2004 interview with The International Herald Tribune, Mr. Pontecorvo said he had found the Pentagon’s interest in the film “a little strange.” The most “The Battle of Algiers” could do, he said, is “teach how to make cinema, not war.”

イラク情勢が悪化し始めた03年夏、ペンタゴンは関係者を集め、対テロ戦争の教材として「アルジェの戦い」を上映した。イラク戦争に反対しながら、自作が米軍の参考にされるという知らせに、監督は云った。「あの作品が教えられるのは映画の作り方だ。戦争ではない」

朝日新聞にも出ていたが、皮肉な話だ。

Gilberto Pontecorvo was born on Nov. 19, 1919, in Pisa, Italy, one of 10 children of a wealthy Jewish industrialist. He was a steadfast Communist, and his older brother, Bruno Pontecorvo, became a prominent nuclear scientist who defected to Moscow in the 1950’s.

Mr. Pontecorvo moved to Paris after the Mussolini government passed laws in 1938 discriminating against Jews. When Nazi forces invaded Paris in 1940, he moved to St.-Tropez. He later joined the anti-Fascist resistance in Italy, becoming leader of a faction in Milan. He was a tennis teacher, a deep-sea diver and a newspaper correspondent in France before he turned to film.

After the war, he became an assistant to the directors Yves Allegret and Joris Ivens in Paris. Returning to Italy, he made documentaries. Though he stopped making feature films in 1979, with “Ogro,” he continued to make documentaries, shorts and television commercials.

映画人としての経歴はイヴ・アレグレ、ヨリス・イヴェンス監督の助手から始まる。「アルジェ」以外の劇映画は4本しか撮らなかった。

(2006/12/04)
posted by ken | Comment (2) | TrackBack (2) | 戦争
この記事へのコメント
TBありがとうございます。
現在DVDの特典を観てるのですが、ポンテコルヴォ監督はリアリズムに徹底的にこだわり、フランス軍の隊長以外は全員素人の役者を使い、FLNの指導者だったヤセフ・サーディを(ほぼ)本人役に起用したそうです。そしてまだ蜂起の記憶が新しいアルジェリアの民衆をエキストラに使用したことで、あれだけ印象的な暴動のシーンが撮れたとか。
いろいろ考えさせられる作品ですね。
Posted by Kingink at 2005年05月21日 22:40
Kinginkさん、コメントありがとーです!
>全員、素人。そうらしいですね。
素人とはいえ、民衆の独立を願う熱い気持ちが力になったのでしょうね。
すごい映画です。
Posted by ken at 2005年05月23日 10:36
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アルジェの戦い[La Battaglia di Algeri]
Excerpt: ★ドキュメンタリーじゃなかったアルジェの戦い1965/イタリア=アルジェリア監督:ジッロ・ポンテコルボ 脚本:フランコ・ソリナス ⇒☆この映画を、【TSUTAYA DISCAS】でレンタルする☆専門学...
Weblog: ヒトコトシネマレビュウ
Tracked: 2005-05-21 16:06

「アルジェの戦い」鑑賞
Excerpt: ジッロ・ポンテコルヴォ監督の疑似ドキュメンタリー映画「アルジェの戦い」(1965)をDVDで観る。傑作だという話は聞いていたものの、ここまで衝撃的な作品だとは思わなかった。作品の内容は1950年代後半...
Weblog: King inK
Tracked: 2005-05-21 21:55